橋本卓典さんの『捨てられる銀行2 悲産運用』(講談社, 2017.4)を読みました。
概要
捨てられる銀行2 非産運用 / 橋本卓典.東京 : 講談社, 2017.4. 285p : 18cm.
著者の橋本卓典さんは、共同通信社経済部の記者で、『捨てられる銀行』(講談社, 2016.5)を執筆された方です。
本書の目次は、次のとおりです。
- はじめに 「売られるあなた」
- 第1章 動き出した資産運用改革
- 第2章 ニッポンのヒサンな資産運用
- 第3章 フィデューシャリー・デューティーとは何か
- 第4章 年金制度の変化と資産運用改革
- 第5章 改革の挑戦者から何を学ぶか
- 終章 「売られないあなた」になるために
- おわりに
前作の『捨てられる銀行』(講談社, 2016.5)では、森信親金融庁長官が進める改革のうち「企業・経済の持続的成長」を取り上げ、地域金融の問題について解説していました。本書では、もうひとつの改革方針である「安定的な資産形成」を取り上げています。
「悲産運用」とは?
(出典:金融庁「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」第1回・事務局説明資料より転載)
上記の図は、本書の冒頭で紹介されているものです。
金融庁がまとめた資料によれば、ほぼ同時期において、アメリカの家計金融資産は3.11倍、イギリスは2.27倍に増加した一方で、日本は1.47倍にしか増えていません。
こうした状況を踏まえ、橋本さんは、これまでの日本の資産運用は「資産運用に非らず」だったとして、「非産運用」という造語を本書のタイトルにされています。
非産で、悲惨でもあった日本の資産運用が、金融庁の改革でどのように変化しようとしているか、ということが本書の大きなテーマになっています。
資産運用改革のキーワード「フィデューシャリー・デューティー」
森信親金融庁長官による資産運用改革のキーワードが「フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary Duty)」です。第3章では、フィデューシャリー・デューティーについて、歴史的経緯や海外の事情を紹介しながら、解説が行われています。これまで金融機関は、顧客との間にある情報量の差を利用し、金融機関にとって都合のいい商品を顧客に売りつける営業を行ってきました。
しかし、「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成」を最重要テーマに掲げる金融庁の改革では、フィデューシャリー・デューティー(真に顧客本位の業務運営)が重視されているため、金融機関の中には「フィデューシャリー・デューティー宣言」を公開するところも出てきているそうです。
「足るを知る」の哲学 巨大資産運用会社バンガード
第5章「改革の挑戦者から何を学ぶか」では、資産運用を取り巻く金融機関の改革として、国内外の事例が紹介されています。その中でも一番興味を持ったのが、資産運用会社バンガード(Vanguard)の事例です。一部のインデックス投資家の間で、熱狂的な支持を受けるバンガード。本書では、創業者のジョン・C・ボーグルのエピソードやバンガードの企業姿勢が紹介されています。簡単にご紹介すると
- 外部株主を持たない統治構造。バンガードの米国籍の各ファンドが運用残高に応じてバンガードの株式を所有している。
- 世界初の個人投資家向けインデックスファンドを売り出した時、「ボーグルの愚行(Bogle's folly)」とさえ揶揄された。
- 年に一度、「ボーグルヘッド・カンファレンス」というバンガード・ファンの個人投資家(ボーグルヘッド)を本社に招くイベントを開催。
- 徹底したコスト管理。運用報告書を印刷する場合、外注よりも内製化した方が安いと判断したら、自社の印刷工場で印刷を行う。
- 販売会社に対して、手数料をキックバックしないという世界的な方針を持っている。
私自身は、バンガードのファンドを保有していません。しかし、本書に書かれたエピソードを読むと、多くのインデックス投資家が、バンガードを支持する理由がわかりました。
まとめ
本書は、日本の悲惨な資産運用の実態を概観した上で、森信親金融庁長官の改革によって、「資産運用の現場がどのように変化しようとしているか」について、解説を行っています。「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2016」にメッセージを出したことから、インデックス投資家の間でも話題に挙がることが多い森信親金融庁長官。本書は、森信親金融庁長官が推し進める資産運用改革を知るためにも、また日本の資産運用の実態を知るためにも欠かすことができない一冊だと思います。