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仕事関連の本として、『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新聞出版, 2017.2)を読みました。

概要

奨学金が日本を滅ぼす / 大内裕和.
東京 : 朝日新聞出版, 2017.2. 261p : 18cm.

著者の大内裕和さんは、中京大学国際教養学部教授で、「奨学金問題対策全国会議」の共同代表を務められている方です。

本書の目次は、次のとおりです。
  • 第1章 この30年で大きく変わった大学生活
  • 第2章 なぜ奨学金を借りなければならないか
  • 第3章 奨学金を返せないとブラックリストに
  • 第4章 奨学金返済で「結婚」「出産」「子育て」できない
  • 第5章 学費と奨学金制度の過去から現在
  • 第6章 奨学金をめぐる改善の動き
  • 第7章 奨学金制度 : 当面の改善策
  • 第8章 奨学金制度の抜本的改革が必要

奨学金を利用する学生が増えている2つの理由

本書は、様々な統計データを紹介しながら、社会問題化している「奨学金問題」を明らかにしています。

特に印象に残ったのが、冒頭で紹介されていた「大学生の奨学金利用者の割合は、1996年の21.2%から、2012年には52.5%に上昇した」との統計結果です。

幸いにも、私自身は奨学金を借りることなく大学院まで修了することができました。また、業務として奨学金に携わることもなかったため、半数以上の大学生が奨学金を利用しているとの認識がありませんでした。

大内さんによれば、奨学金の利用者が増加した原因として、次の2点が考えられるそうです。

  1. 大学の授業料が値上がりしていること
  2. 学費を負担している保護者の所得が減少していること

1980年代以降、国立大学、私立大学ともに授業料が値上がりしている一方で、1990年代半ばから平均年収は減少しています。昔と今では、大学生活を取り巻く環境が大きく変わっているにも関わらず、「国立大学の学費は安い」といったイメージを持ったままの世代も多く、世代間ギャップが存在しているそうです。

奨学金を返せないとブラックリストに!?

本書では、奨学金回収の厳しい実態も明らかにされています。

最近、日本学生支援機構による取り立てが強化されていて、奨学金の返済が滞ると
  • 本人や保証人への電話による督促
  • 債権回収専門会社への回収移行
  • 個人信用情報機関への登録
  • 裁判所に支払督促の申し立て
などが行われているとのこと。

本書では、奨学金制度の説明だけではなく、リアルな事例も紹介されており、奨学金の返済が困難になっている実態について知ることができます。

少し気になる点も・・・

本書は、統計データの分析から「奨学金問題」は、個人だけで解決できる問題ではなく、社会として取り組むべき課題であると指摘しています。

しかしながら、個人的には少し気になる点もありました。それは、奨学金の管理が親や保護者任せになっており、貸与されている金額や使い道を把握していない学生が多い点です。

大内さんも主張されていますが、
  • 奨学金を利用するか否かは、利用する本人と話し合った上で決定する
  • 奨学金の金額や使い道については、きちんと本人に伝える
ことが重要だと感じました。自分が置かれている状況を正確に把握できないと、その後の対応が誤ったものになる可能性があるからです。

自分の状況を把握し、適切な対応策を考える。この部分は、個人でも取り組むことができる部分なのではないでしょうか。

まとめ

本書は、奨学金問題の全体像を分かりやすく解説するとともに、抜本的な改革案を提示しています。本来、「人への投資」であるべき奨学金が、「将来の債務」になっている奨学金問題。この問題を解決していくために、一人でも多くの方に、現状を知って欲しいと思います。

奨学金が日本を滅ぼす (朝日新書)
大内裕和
朝日新聞出版
2017-02-13