競争社会の歩き方
相互リンク先のけいのすけさんが紹介されていた『競争社会の歩き方 : 自分の「強み」を見つけるためには』(中央公論新社, 2017.8)を読みました。

本書は、行動経済学の知見を紹介した本で、知的好奇心をくすぐられる一冊でした。

【外部リンク】インデックス投資は行動経済学上も理にかなっている!「競争社会の歩き方」(大竹文雄著)を読了|開店休業インデックス投資Way

概要

競争社会の歩き方 : 自分の「強み」を見つけるには / 大竹文雄.
東京 : 中央公論新社, 2017.8. vii, 235p : 18cm.

著者の大竹文雄さんは、大阪大学社会経済研究所教授で、労働経済学、行動経済学を専門とされている方です。NHKの経済教養番組「オイコノミア」でも解説を務められています。

本書の目次は、次のとおり。
  • プロローグ 競争で強みを見つける
  • 第1章 身近にある価格戦略
  • 第2章 落語と小説の経済学
  • 第3章 感情と経済
  • 第4章 競争社会で生きてゆく
  • 第5章 格差社会の真実
  • エピローグ イノベーションは、若者の特権か

有名な旅行ガイドブックの『地球の歩き方』が各国の観光名所や見所を紹介しているように、本書は、経済学の研究成果を紹介する形で、「経済学的な思考法」について解説しています。本書が取りあげているテーマは、多岐にわたります。

  • くまモンの普及戦略
  • プロゴルファーと損失回避
  • ストレスとリスク耐性
  • 経済学部は文系なのか?
  • 行動経済学の政策活用

どれも興味深く、知的好奇心をくすぐられる内容です。

専門的な内容がベースになっていますが、味のあるイラストとともに、わかりやすい解説が行われているため、経済学に明るくない私でもさくさく読み進めることができました。

本書のなかで、特に印象に残った部分を紹介します。

したたかな広告戦略:暗黙の共謀

家電量販店のチラシでよく見かける「他店価格対抗広告」を取り上げ、企業の価格戦略が解説されています。

「他店よりも安く販売します」といった広告をみかけたとき、広告主のことを「消費者思いの店」と考える人が多いと思います。

しかしながら、大竹さんによれば、これらの他店価格対抗広告が意味するところを理解するためには、次の三段階の思考が必要とのこと。

第一段階の思考:「安売り競争で対抗する店」という消費者に向けた宣伝
第二段階の思考:対抗を宣言することで、ライバル店の値下げ戦略を牽制
第三段階の思考:ライバル店が価格競争をしてこないと予想した上での広告出稿


「他店価格対抗」という広告の意味は、顧客に対して必要以上に値下げせずに済むよう、ライバル店に対して「価格競争をするな」というものであり、「もし価格競争をしかけたら、お互い損をするように罰を与える」というものなのだ。
(24ページから引用)
こうした価格維持の行為は、「暗黙の共謀」とも呼ばれているそうです。

上記で引用した一節を読んだとき、eMAXIS Slimのことを思い出しました。

業界最低水準の運用コストを目指すことを明言したeMAXIS Slimは、登場時大きな衝撃を与えました。ただ、ファンドの誕生を歓迎する声がある一方で、eMAXIS Slimが最低水準の追求を明言したことで、信託報酬の値下げ競争に歯止めがかかるのではないかと懸念する声があったのも事実。

現状を見る限りでは、三菱UFJ国際投信が明言したとおり、値下げ競争が進んでいるように見えます。しかし、本書を読んで、当初、一部のブロガーたちが指摘していた懸念は、経済学的な思考による深い分析だったことに気づきました。

経済学的な思考を身につけていれば、企業の広告を盲信するのではなく、広告の裏に隠された戦略を読み取ることができるようになるのかもしれません。

高齢者の増加と安全資産保有の関係

よく知られているように、日本の家計金融資産の多くは高齢者世帯によって保有されています。高齢者世帯が保有する金融資産は、老後に備えて、現役時代に貯蓄されてきたものです。

こうした現状を踏まえ、本書では、今後、高齢化が進む日本経済における問題点として、次の2点を指摘しています。

  • 高齢化によって、「貯蓄を積み増す人」よりも「貯蓄を取り崩す人」が増えること
  • 高齢者世帯が保有する金融資産が、安全資産に偏る傾向があること

その上で、大竹さんは「高齢者の金融知識は不十分である」という調査結果と「高齢者が安全資産を選択する理由は、残りの運用期間が短いからではなく、記憶力などの認知能力が衰えてくることによるものである」という研究結果を紹介していました。

一般に、残りの運用期間との関係で、安全資産の割合が語られますが、運用の出口戦略を考えるためには、「自身の認知能力」という点も考慮すべき重要な要素なのかもしれません。今後、しっかりと検討したいポイントです。(30代の私にとって、まだ遠い未来の話のようですが)

行動経済学、経済学的思考法について学べる一冊

「あとがき」にもあるように、本書は経済学の研究成果を一般の人向けにわかりやすく紹介した一冊です。

本書を読むことで、行動経済学の一端を垣間見ることができます。また、本書が解説する経済学的思考法について知ることで、様々な視点から、経済や投資について考えることができるようになるのではないでしょうか。